「熊本自給率100パーセントのレストランを目指して」
「熊本は海があって、山があって素晴らしいところ」良く言われる言葉です。
しかし、海もあり山がある地域は日本中どこにでもあります。
熊本の何が素晴らしいのでしょうか??私は熊本中の生産者を訪ね、「あること」に気づきました。
県北には平野地が広がり、豊かな農業が育まれる。
世界最大の半自然草原である阿蘇は寒冷地の気候を有し、あか牛の放牧や米、高冷地野菜などの多様性のある農業が営まれる。
天草には珊瑚礁などの熱帯気候の生態系もありながら、ブリなどの北からの魚が食べられる南限でもあるなど、豊富な魚種がある。
日本最大の干拓地、有明海では、また違った生態系と漁業が営まれている。一年を通し温暖な気候を持ち、柑橘類が育つ不知火海。
日本三大急流の「球磨川」を有する人吉は独自の食文化を有し、奥深い森の中に私達が忘れてしまった「里山」の風景を残します。
そう、熊本にはおよそ私たちが考えることができる日本の自然や気候が「すべて」あります。
1年中、農業ができ、食べ物が身近にあることの「奇跡」 熊本の大地は「食の大地」
私はいつの頃からか、熊本ですべての食材を調達し、いつかはオリーブオイルや生ハムまで熊本産にしたいという
「熊本自給率100パーセントのレストラン」を夢見ています。
その夢も近くなってきました。肉や野菜などの生鮮産品にいたっては、9割以上、熊本産ですし、チーズやヨーグルト、生クリームなど
乳製品も熊本産、オリーブオイルも県内各地で作られるようになり、今年から「生ハム」も作り始めました。
ここでポイントは、「生産者の皆さんとの協働」。これを自分だけで野菜を育てたり、ハムやチーズを作ったりしては
多くの人と『故郷の持つ可能性』の素晴らしさを共有することができません。
生産者と悩み苦しみながら、より良いものを作り上げていく。私の活動は地道な「草の根運動」でもあります。
こんな私を応援してくれる農家さんも今では50軒以上になりました。
そんな農家さんに何か恩返しをしたいと考えていた頃に「世界農業遺産」を知りました。
『これは熊本に合うかもしれない』直感と言いますか、そう考えました。
「世界農業遺産」とは、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり発達し、形づくられてきた農業上の土地利用、
伝統的な農業とそれに関わって育まれた文化、景観、生物多様性に富んだ、世界的に重要な地域を次世代へ継承すること
を目的とした国連食糧農業機関(FAO)が2002年から始めた制度です。
これまでの大規模農業を見直し、伝統的な農業や先人の知恵を見直そうというもの。別に大規模農業が悪いと言っている
わけではありません。我々はその恩恵を多分にうけております。ただ、気候変動であったり、世界がグローバル化し、
ものすごいスピードで変化していく中、多様な農業をバランスよく共存させていかなければなりません。
この考え方に私は共感し、活動を始めました。妨害や嫌がらせなどの数々の困難、FAOからの試練などたくさんの
苦労もありました。しかし、それも沢山の仲間に支えられました。
阿蘇の若手農家さん達、そして「戦友」国枝課長はじめ県庁の皆さんなど、本当に多くの仲間たちと乗り越えていきました。
皆さんには感謝してもしきれません。
活動を始めたばかりの頃、突然「会いたいです!」とメールを送った私に快く会って下さり、その後、指南役となってくださった
国連大学の武内副学長、どうなるかわからない頃、視察に行った佐渡、九州北部豪雨、数百回と行われた会議の数々、
最後のチャンスと思い小野副知事、大津愛梨さんと共に乗り込んだローマのFAO本部、今ではどれも良い思い出です。
そして、晴れて2013年5月、能登で開催された国際会議において阿蘇は世界農業遺産に認定されました。
阿蘇の世界農業遺産認定は「食の大地・熊本」への大きな第一歩です。
農家さん達に元気に、楽しく仕事をしてもらい、私たち、料理人がその恩恵に授かることができる「食の大地・くまもと」。
こんなに素敵な『故郷』はありません。
これからも地道に農家さんとの協働を続け、皆様にお届けできたらと思っております。
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